初の女性大統領であり、朴正熙(パクチョンヒ)氏と親子2代で国のトップに就くのも初めて。話題性に富んだ朴氏が、選挙で力説したのは「国民の統合」だ。

 李明博(イミョンバク)前政権下で深まった政治や社会の対立をときほぐし、調和の社会をめざす。それが約束だったが、これまでのところ実現したようにはみえない。

 

 大統領は国民対話の機会を増やし、反対勢力をも包容する政治を進めるべきではないか。

 対立の大きな原因になっているのが、大統領選をめぐる情報機関の不正介入疑惑である。国家情報院(国情院)の職員が、野党候補に不利な情報をネットに大量に流したとされる。

 警察は、投票日直前に「介入は確認できない」と中間発表をし、野党候補はダメージを受けた。だが選挙後、国情院の組織的な介入や警察による事実の隠蔽(いんぺい)が次々と判明し、当時の国情院長などが起訴された。

 

 一方、本格捜査を指示したとされる検察総長が隠し子騒動で辞任するなど、不可解な出来事が相次いだ。野党側は、特別検事による疑惑の究明を求めているが、政権側の姿勢は必ずしも積極的とはいえない。

 さらに朴政権が、最左派の野党の解散を憲法裁判所に求めたことも波紋を広げている。北朝鮮式の社会主義を追求しているからだと政権は説明するが、「軍事政権への逆戻りだ」と同党は猛反発している。

 父の正熙氏は経済成長の土台を築いた半面、情報機関や軍を使い、反対勢力をねじ伏せた。そのため今も、父の独裁時代と重ね合わせた批判が噴出する。

 

 ただ、民主化して久しい今の韓国で、朴氏がきな臭い体制を復活させることはありえないだろう。そんな疑念を払拭(ふっしょく)するためにも、朴氏には透明な国政運営が求められる。

 まずは、選挙不正疑惑を解明する真剣な行動を示すべきだ。そのうえで野党との討論やメディア会見など広範な対話の場を広げることも有益だろう。

 

 国情院のあり方はこれまでもしばしば問題になってきた。これを機に根本的な組織改編を議論してみてはどうか。

 どの国であれ政治指導者は、自分の信念だけでなく、対立派との対話による妥協を築く謙虚さを備える必要がある。

 朴氏のかたくなな姿勢は日韓関係にも影を落としている。だが、民主主義の価値を共有する隣国同士である。開かれた政治を競い合う関係に進むことが、互いの利益となるはずだ。